古い仏画 掛け軸の修理例
寺院様や講中様が所有する仏画を修復して後世に伝えます。
修理例1 弘法大師像図 掛け軸
撮影環境や出力画面により、実物と多少の色合いの変化があります。
弘法大師・・・空海 平安時代初期の僧。弘法大師の諡号で知られる真言宗の開祖。
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修理前 斜めから
横折れが多数で、一部強い折れもあります。下地が見えて線になっている部分があります。
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修理後 斜めから
横折れは解消
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修理前
絵具が一部剥落しています。今後は早い段階で絵具が無くなっていきます。
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掛け軸 修理後
剥落防止処置
仏画掛け軸の調査
【仏画の寸法】 タテ 114㎝ ヨコ 49㎝
【仏画の状態】 絹に顔料で描かれています。絵具の剥落・虫穴・横折れ。
【掛け軸の寸法】タテ 200㎝ ヨコ 70㎝
【掛け軸の状態】展示が困難なレベルの損傷
【修理方針】 絵具の剥落に注意しながら、保存性を向上。掛け軸は軸首以外新調。また箱の記録を保存。
修理作業への準備

絵具部分に、防腐剤を含まない膠(ニカワ)水溶液を塗って強化します。
今後の作業では、幾度と水を使用することになります。
顔料がその水と反応して溶けたり、剥がれたりする可能性があります。
それを防止するために、絵具層を強化します。
今回の仏画は、僅かな水分では反応しませんでした。
仏画上部の剥落は、数回その部分に塗って強化しました。
掛け軸から仏画を取り出して仏画の修理
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解体して仏画を取り出す
仏画を安全に切り離しました。
もし使用されている掛け軸の裂を再び使用する場合は、掛け軸をより丁寧に解体します。 -
仏画 裏面
水で湿して、糊の接着を弱らせて裏打ち和紙を剥がします。
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裏打ち
絵具(顔料)保護のためにそのまま旧裏打ち和紙に糊を付けて裏打ちを行いました。
補絹
欠損した部分に絹で穴を補填します。劣化した絹を穴の形に切り取って補填します。小さい穴が下部分に複数あります。
おそらく虫に食べられたと思われます。
補彩
上記の欠損部分に補填した絹に色を付けます周りと同じ色より少し薄めにします。
横折れ部分を修繕
仏画に付いている横折れを改善します。
仏画裏面の横折れ部分に、細い和紙を貼り付けて補強することで、巻く時に再び折れが入りにくくなります。
可能であれば、桐材の太巻き棒で大きく巻いて保存すれば、遠い将来まで横折れを防止できます。
掛け軸に表装

元のように掛け軸の形に表装します。
今回選択した表装裂を裏打ち後に、仏画の周りに付け足していきます。
形式は仏表装
表装の裂地は、金襴裂と古い仏画に似合う綾織を使用しました。
掛け軸の形に仕立てた後、宇陀和紙で全体に裏打ちを行い、長期乾燥します。
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金襴
中廻しの部分に使用
古い仏画に合う渋めの色と輝きを抑えた金箔が使用されています。 -
綾織り裂
高野裂と言われております。
鎌倉~室町時代の仏画によく見られます。 -
軸首
旧金軸再使用
可能出れば再使用します
掛け軸の保存

古い仏画の箱には、記録がある場合があります。箱の蓋部分によく見られ、記録部分は重要です。
仏画掛け軸と収納箱は一緒となりますので、古い記録部分を残して保存します。
幸い文字部分が蓋のみですので、新しい箱の底に収納しました。
参考価格
作品の損傷度・大きさ・表装材料等により、価格は異なります。
仏画修理費 | 修理工数 ★★★ | 30,000円 |
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掛け軸表装費 | 仏表装 上品 通常サイズ | 80,000円 |
合計 | 110,000円位 |
修理例2 浄土真宗仏画 掛け軸
撮影環境や出力画面により、実物と多少の色合いの変化があります。
湛如・・・江戸時代中期の浄土真宗の僧。
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掛け軸 修理前
損傷度 ★ ★ ★ 大
展示は避けたい
裂地の劣化 虫食い -
仏画 修理前
損傷度 ★ ★ ★ 大
横折れ 絵具の剥落
多数の虫食い
過去の補修痕
後世の絵具の塗り足し -
掛け軸 修理後
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仏画 修理後
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修理前 拡大
虫穴が多い
後世の補修がある
絵具の剥落 -
掛け軸上部
虫穴が全体に広がっていました。
丸めた状態から、虫が外側から食べ始めたと想像します。
裂の劣化も進んでいて、仏画修理後は掛け軸は新調になります。 -
仏画 上部
後世の補修で、絹が補填されていました。
しまし、絹と絹の重なり部分から、剥がれが生じていました。 -
後世の着色
後世に緑色部分と数珠の白色部分に着色されていて、原画の線にはみ出していました。
本来なら除去するべきでしょうが、そのままにしました。
修理作業への準備
絵具部分を強化
膠(ニカワ)水溶液を絵具部分に塗布して強化します。落ち易い絵具には数回塗布を繰り返します。
表面に仮の裏打ち

旧裏打ち和紙を剥がす際、時間が掛かり過ぎますと不具合が生じます。
よって仏画の表面に養生紙で裏打ちを行います。
仏画面を固定して乾燥した後、時間をかけて作業を行うことが可能になります。
接着しても後で容易に剥がすことが可能な"ふのり"を用います。
裏打ち和紙を剥がす

旧裏打ち和紙を時間をかけて剥がします。
少量の水分を与えて、糊成分を弱めて和紙を剥がします。
場合により、絹の裏面にも絵具がある場合があるので慎重に進めます。
虫穴を補填

可能な範囲で、虫穴に絹で補填します。絹を虫穴の形に切り取って補填します。
また、後世の補修時に埋め込まれた絹をそのまま再利用しました。
絹の場合は和紙とは異なり、重なり部分に糊が着きません。よって、虫穴の形ピッタリに成型します。
絹は、新しいものは固く、古い仏画に補填してもその部分だけ固い状態となります。
そこで補填する絹は、ある程度劣化した弾力をなくした古い絹を使用します。
補彩
補填した部分に、色を入れて周囲との違和感を調整します。
修理過程の変化
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修理前
過去の虫穴補填
糊離れ等傷みがあります。 -
裏打ち和紙除去 裏面
仏画の旧裏打ち和紙を取り除きました。
画像では、裏面で左右反転しています。この段階では、表面に仮に裏打ちされているので、紙で見えない状態です。 -
表面 補彩後
補填した絹は、色が薄い部分もあり、違和感があります。補彩して、周囲との違和感を緩和させます。
よく見ると、補填した部分は区別できます。
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修理前
過去の修理の時に、絹が補填され、重なり部分から剝がれ始めていました。
虫穴も多く、補填して調整します。 -
裏打ち和紙除去
裏打ち和紙を剥がして、仏画本来の部分の状態。
過去の修理補填も一度除去しました。 -
修理中
絹を補填して、裏打ちを行いました。
違和感は殆ど解消されました。 -
修理後
絹を補填した後に、色を着けて違和感を調整しました。
掛け軸に表装

仏画を修理した後に、掛け軸に表装します。
金襴部分に、菊紋と五七桐の文様を使用しました。
他部分は、仏表装に相応しい華紋と色合いの裂で、軸首は再使用しました。
参考価格
品の損傷度・大きさ・表装材料等により、価格は異なります。
仏画修理費 | 修理工数 ★★★★ | 40,000円 |
---|---|---|
掛け軸表装費 | 仏表装 上品 通常サイズ | 80,000円 |
合計 | 120,000円位 |