未表装の書画・仏画・曼荼羅を掛け軸表装


和紙や絹にかかれた書画があるものの、そのままでは鑑賞ができない状態の作品を「捲り(まくり)」と呼びます。表装とは、こうした未表装の作品を掛け軸に仕立て、鑑賞できるようにすると同時に、保存性を高める大切な工程です。いわば、作品にあう「着物を着せる役目」と言えます。価値がある作品も、そのまま放置すると散逸する可能があります。掛け軸に表装することで、床の間に掛けられるようになり、床の間がない場合もでも、額装など現代の住環境に合わせた形での保存が可能になります。仕立てた掛け軸は、通常専用の桐箱を入れて保存します。

伝統的な掛け軸表装と機械による掛け軸表装の違い

掛け軸はどれも同じように見えますが、その製法と品質には大きな違いがあります。
「長期保存を目的とした伝統的な本格表装」と、「効率を重視した大量生産の機械表装」のどちらを選ぶかが重要です。
機械表装(熱による接着など)は価格がお手頃で納期も早いというメリットがありますが、保存や将来の修復には向いていません。そのため、展覧会などの一時的な展示には機械表装、世代を超えて後世に伝える大切な作品には伝統的表装と、目的に応じて選ぶことが大切です。


伝統的な掛け軸表装の特徴

【価格】数万円~
【工期】1ヶ月~(工房の状況により変動)
【対象】次世代に伝えたい大切な作品
【利点】作品の品格や雰囲気に合わせたオーダーメイドの表装、将来の修理・再表装が可能で後世に残せる
【短所】手作業のため費用と時間がかかる


機械表装の掛け軸の特徴

【価格】お手頃
【工期】短期
【対象】短期間の展覧会等
【利点】短期間・低価格で仕上がる
【短所】糊(接着剤)の特性上、再修理や再表装が困難


掛け軸の表装例

書の表装例

(伝)徳川斉昭・・・江戸時代後期の大名。15代将軍徳川慶喜公の実父。

表装前(捲りの状態)
表装後(三段表装)


作品の事前修復

未表装であっても、経年による傷みがある場合は、表装の前にまず作品自体の修復を行います。

掛け軸への表装

大名の書という作品の格調に合わせ、格式の高い「三段表装」を選択しました。古い作品の風合いに調和する正絹裂(しょうけんぎれ)を用い、一文字には葵紋を織り込んだ金襴を採用しています。
【寸法】タテ 203cm × ヨコ 59cm
【形式】三段表装(一文字:金襴・葵紋 / 中廻し:正絹裂 / 天地:正絹無地裂 / 軸首:塗り軸)


参考価格

三段表装  上品 70,000円~  別途作品の修理費用が必要です


仏画の表装例

表装前
表装前
表装後(仏表装)

寸法: タテ 101㎝  ヨコ 48㎝ 絹に顔料で描かれている
状態: 過去に裏打ちのみが施され、絹地に欠損が見られます。掛け軸に表装する前に仏画の修復が必要
仏画は以前掛け軸に表装されていたかは不明ですが、裏打ちのみの状態


掛け軸の表装

【掛け軸の寸法】 タテ 182㎝  ヨコ 68.5㎝ 
【表装形式】 仏表装 (中廻し:金襴裂  総縁:正絹緞子裂  軸首:金軸(時代色付け)


参考価格

仏表装 (上品) 80,000円~  別途作品の修理費用が必要です。


四国八十八カ所・西国三十三カ所 納経軸の表装

表装前
表装後

ご巡礼の証である大切な納経軸には、趣にふさわしい表装裂をしつらえます。荘厳さを出す総金襴表装や、落ち着いた雰囲気を醸し出す緞子(どんす)との組み合わせなど、ご要望に合わせてお選びいただけます。

四国八十八ヶ所・西国三十三ヶ所等は、中央にお大師様や観音様がおられます。 伝統的掛け軸は、表装過程で和紙を縦に繋ぎ合わせなければなりません。  
お大師様や観音様のお顔や上半身部分に繋ぎ目が入らないようにします。  
*桐箱の並品が付属です。


表装に使用する材料

作品を長く残すためには、将来的に修理ができる掛け軸を選ぶことが大切です。世代を超えて作品を伝えるためには、将来も安全に修理できる表装が必要です。そのためには、「糊」、「和紙」、「裂地」などの材料が重要な要素となります。

安全に剥離できる糊

修理されている多くの掛け軸は、水で湿らせると剥離しやすい糊が使われています。
これは生麩糊(画像右の甕)で、小麦粉デンプンが主成分です。最初の裏打ちに使用します。

将来の修理では、この裏打ちを簡単に剥がせるため、安全に作業でき後世に伝えることができます。その後、裏打ち和紙を何層か貼り付けて掛け軸を仕上げます。
文化財クラスとなると、古糊が使われます。(画像左の甕)生麩糊が経年で接着力が弱まることで、使用します。ただし、当店では古糊の使用は条件付きです。
その代替として約60年前から化学糊が使われています。これは安定性がありますが、使われ始めてからの経過が短いため、次回の修理時の変化が予測しにくいです。国宝や文化財修復には化学糊は使用されておらず、当店では掛け軸の修理時には通常、作品に直接接する部分には使用しません。現在の表装工房では、ほとんどが全工程で化学糊を使用していると考えられます。


使用する表装裂

掛け軸は巻いて保存するため、巻きやすさを考慮してヨコ糸が太く織られています。これは明治時代から京都西陣を中心に発展した伝統的な織りの技術です。当店では、耐久性と気品に優れた「正絹製(絹100%)」の表装裂を使用しています。

表装裂 正絹製
表装裂 正絹製

西陣織の表装裂

製造証明


主な表装裂の種類

金襴

金箔を細かく糸状に加工したものを、裂の中に織り込んだ裂です。表装裂ではありませんが、身近なものでは寺院の本堂内部に見られます。掛け軸には、主に一文字や中廻しに使用されます。また使用されている金箔や糸の品質により、差があります。金箔では本金か代用金の違いと、糸は正絹か化繊かによります。代用金箔でも高品質は見た目には判断しにくい場合があります。しかし、代用金箔は遠い将来に金色が褪色し輝きを無くします。(環境や品質によります。)現在は本金襴(本金箔を織り込んだもの)は高価ですので、合金欄や新金襴の代用金襴が主流です。当店で使用する金襴は、本金襴・合金襴です。通常当店で使用しない金襴は新金襴(アルミ箔)です。

緞子 他

緞子・錦裂は、タテ糸とヨコ糸の組織で文様を現します。金襴の荘厳さとは異なり、落ち着いた雰囲気に仕上がります。
糸の品質や種類も多岐に亘り、現在では人工絹で織られた緞子が主流になりつつあります。
原則当店で使用する裂・・・正絹製 100%


表装に使用する和紙

掛け軸は通常、3層にわたって異なる種類の和紙で裏打ちされています。長期保存に適している掛け軸は、高品質な国産楮で作られた和紙が必要です。最近では、従来の手漉きだけでなく、機械漉きも増え、楮も外国産が増えています。

薄美濃和紙

肌裏打ち(最初の裏打ち)に使用します。現在、表具に使用する和紙でも、昔の和紙とは異なり、生産の効率から薬品を使用します。その薬品が和紙の強さの低下を招いていると考えています。当店では、作品部分には国産楮・ソーダ灰・天日乾燥その他部分は、苛性ソーダの手漉き和紙を使用します。

美栖紙

増し裏打ちに使用します。美須紙と表記している製品もあります。 当店では使用しませんが、一般に多くの工房では使用しています。 その他の代用品も多数あり、ロール状機械漉きもあるようです。

宇陀紙

総裏打ちに使用します。掛軸の外側の和紙に使用します。 文化財級~高級掛軸には、吉野産を使用します。(当店使用)
商品名で品質の違いや代用品もあり、宇田紙と表記している紙もあります。


軸首の主な種類

多種類の形や材質があり、掛け軸の形式に応じて使い分けます。掛け軸を巻き上げる際は、軸首を持っておこないます。

牙軸

動物角を加工したもので、日本画の作品に合います。中には人工的な品もあります。


金軸

仏表装に使用します。材質により高級品から普及品まであります。手彫りの金軸・・・文化財級の仏画等。手彫り風(手彫りを模した物)・・・一般に使用し品質に差があり、金の輝きの明度もあります。当店では、金の輝きを抑えたツヤ消しを使用します。古い仏画には、時代色(古色)を付けた金軸を使用します。透かし金軸・・・納経軸(四国八十八ヶ所・西国三十三ヶ所等)に使用します。

塗り軸

小豆色や黒色はよく使用されます。塗りの種類は、本漆からカシュウ(代用漆)があります。古い掛け軸には、ツヤ消した塗りを使用します。

木地の軸

木地を加工した軸首で、材質・形も多種あります。主な木地の種類としては、黒檀・紫檀・一位・花梨があります。作品の内容や表装形式に合わせて、軸首を選択します。頭切りから撥型・変わり形など、多種あります。


表装の主な工程

取り合わせ

表装裂を当てて、完成の雰囲気を確かめます。 他にも候補がある裂をパターンを変えて実際に当ていきます。

肌裏打ち

裁断した表装裂に、薄美濃和紙で裏打ちをおこないます。 裏打ち作業に使用する糊は、通常は生麩糊、又は化学糊を使用します。 水を与えることで、容易に表装裂から和紙が剥離しやすくなります。

増し裏打ち

薄美濃紙で裏打ちして乾燥後、作品や表装裂の補強と、厚さ調整で2度目の裏打ちを行います。 打ち刷毛で和紙同士を圧着させます。 増し裏打ち後、仮張りと言われる乾燥版に貼り付けて乾燥させます。

付け廻し

増し裏打ち後、仮張りと言われる乾燥版に貼り付けて乾燥させる。仮張りから外し、相応し表装形式に仕立てます。本紙の周りから、格上部分から順番に付け足していきます。

総裏打ち

付け廻しの後、掛け軸裏面全体に、宇陀和紙を貼り付けます。仮張りに貼り付けて、長期乾燥します。

仕上げ

長期乾燥後、軸等を取り付けて仕上げます。


表装に関するよくある質問

掛け軸に表装するには何処に依頼すればよいのでしょうか

表具店と呼ばれる店舗及び工房です。現在でも主な電話帳には表具店のインデックスがあります。


また画材店や額縁店でも取次ぎをおこなっていますが、大事な作品は直接表装店に依頼します。


しかし、表具店でも襖専門のところもありますので、表装専門がよいでしょう。

掛け軸は販売していますか

最初から掛け軸に表装されているものは販売していません。そのような掛け軸は既製品です。


画材店で販売していると思われます。表装店及び表具工房は、作品(捲り 未表装)をお預かりして、掛け軸に表装します。


作品はご用意願います。

どのような作品が掛け軸に表装できますか

基本的には和紙や絹に描かれたものですが、厚さにもよります。よって現物拝見が確かです。


表装依頼の多いもので、書道家による作品・僧侶が書かれた曼荼羅や書画、絹


和紙に描かれた仏画納経軸(四国八十八ヶ所・西国三十三ヶ所 等)があります。

掛け軸が仕上がるまでの期間について

本来の掛け軸表装は、仮張りと言われる乾燥板に貼り付けて乾燥させます。


昔でしたら四季の湿温度に当てて、長期乾燥で掛け軸を馴染ませます。


現在では、納期等諸事情でそのようなことは少ないでしょう。工房にもよりますが、少なくとも1ヶ月以上は乾燥期間をとります。


一方、機械表装のプレス乾燥では仕上がりは早いでしょう。当店ではおこなっておりません。

掛け軸を掛ける場所(床の間)がありません

可能であれば、掛け軸ではなく額装での保存となります。


額装ですと、エアコンの急激な室温変化の影響も少なく、現在の住環境に対応できます。


しかし、作品が光線に曝されることから、将来の変色等の影響を受けます。


当店では、紫外線カットアクリルガラスで対応しますが、将来の影響に関するデーターはありません。

掛け軸を入れる桐箱のみ必要ですが可能でしょうか

可能です。掛け軸の幅寸法をお知らせください。できれば、実物があればこちらで計測して製造します。

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