掛け軸の部分補修

掛け軸の「補修」と「修復」について

掛け軸は、中心となる作品(本紙)に、周辺の裂(きれ)や和紙などを付け加えて構成されています。そのため、掛け軸から作品を、分離・解体することが可能です。
修復(全面的な修理): 作品も含めて掛け軸全体が大きく傷んでいる場合は、一度すべてを解体し、作品の修理から表装の仕立て直しまで、**根本的な修理(修復)**を行います。
補修(部分的な修理): 作品の損傷は少なく、掛け軸の表装部分に限定的な損傷が見られる場合は、**部分的に解体して損傷箇所を直す「補修」**で、再び掛け軸を飾れる状態に戻すことができます。

 

掛け軸の表装形式による補修の可否

掛け軸の表装形式や損傷の状態によっては、部分的な補修で対応できる場合があります。

 

三段表装の場合

この形式の掛け軸は、主に3種類の裂地で構成されています。上下の裂地(天地)に損傷が多く見られることがありますが、その場合は損傷した天地の裂地を新しく取り替えて補修します。

 

 

 

 

 

袋表装の場合

 この形式は2種類の裂地で構成されており、原則として裂地を部分的に新しく取り替えることはできません。しかし、掛け軸の裏側の状態によっては補修が可能な場合もあります。外側の裂地に広範囲にわたる大きな損傷がある場合は、部分修繕が難しい可能性が高いです。 このような場合、現在の裂地を再利用したいとお考えであれば、一度掛け軸全体を解体し、裏打ち(作品を支える和紙)を根本的にやり直すことで対応できることがあります。

 

 

 

 

 

裏面の「糊浮き」に対する補修

掛け軸の裏面は、主に3重の和紙構造でできています。もしこの各層の間に空気が溜まっている場合、それは接着している糊の力がなくなり、内部で和紙が剥がれている**「糊浮き」**という状態です。

 


掛け軸の裏面は主に3重構造になっています。
第1層目~第2層目~第3層目の間に空気が溜まっている場合、
それは糊の接着力がなくなり、内部で剥がれている状態です。
その場合は、糊浮きがある層を取り替えることになります。
但し、掛け軸裏側と第1層目の間に、広範囲で空気が溜まっている場合は、根本的に修理しなければなりません。
可能かの判断は、現物拝見の上での判断になります。

 

掛け軸の「補修」が難しいケース

以下のような場合は、部分的な補修が難しく、全体を解体しての根本的な修復をおすすめします。
紙で仕立てられた掛け軸の場合: 作品自体の損傷は少なくても、表装部分が紙製の掛け軸は、原則として部分的な補修ができません。この場合、全体を解体して根本的に修復する方が、結果的に費用も納期も抑えられることが多いです。

 

茶道で使われる「揉み紙」の掛け軸の場合: 茶道で用いられる掛け軸の中には、特殊な「揉み紙」が使われているものがあります。この場合は、状態によっては部分的な補修が可能なこともありますので、ご相談ください。